地ビールやクラフトビールがあるなら、地たばこやクラフトたばこがあっていいはず

1994年の規制緩和によって、ビールの製造量規制が緩和され、全国各地にさまざまな中小ブルワリーができた。地ビールバブルのピーク時には300社もあったブルワリーは、2010年ごろに一度200社ぐらいにまで減ったが、2016年度にはふたたび256社にまで増えている。これはおそらく震災後のローカル志向の高まりによるところが大きいのではないかと思う。

ともかく、今の日本には、各都道府県に4、5社づつぐらいの小規模ビールメーカーがある。

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最近では、普通のスーパーでもクラフトビールを置いているところが多くなってきた

一方で、ビール業界の盛況に比べれば、たばこ産業の状況は惨憺たるものだ。未だにJT以外の企業が新規参入することは許されていない。日露戦争時代に作られた専売制度は、専売公社が民営化された現在でも事実上続いているといっていい。時代遅れにもほどがある。

この惨状を作り出しているのは、いうまでもなく、たばこ事業法の「製造たばこは、会社(JT)でなければ製造してはならない」という文言だ。

それでは、JTは製造独占によって莫大な利益を得ているかといえば、ある程度まではそうだが、グローバル化が進む中で、日本国内での製造独占はもはやあまりうまみのない制度になりつつある。

では、たばこ市場の開放を阻んでいる真の黒幕は誰なのか?といえば、それは国内のタバコ農家たちである。そもそも、1985年に専売公社が廃止され、新たにたばこ事業法が制定されたときに、法中にこの文言をねじ込んだのはタバコ農家の組合である。農家が栽培した原料葉を国際価格の数倍の価格でJTに買い取らせるためには、国内で複数の企業による自由競争が起きては困るからだ。つまり今の仕組みは、タバコ農家を守るための保護政策であるともいえる。

もしも、専売制改革時にタバコ農家組合が文句を言わなければ、専売公社はちょうど今のJRのように、JT西日本・JT東日本というような形、もしくはセブンスター社・マイルドセブン社のような形で分割され、正常な競争が生まれ、地たばこやクラフトたばこを作る中小たばこ企業が生まれていた可能性も十分にあり得る。(※)

たしかに、「たばこは危険なんだから、地たばこなんてできるはずないだろ!」という批判もあるかもしれない。でもこれは卵が先か鶏が先かという問題でもある。つまり、現在の禁煙ムーブメントは、地方各地にアメスピのような“農産物”としてのまっとうなたばこを製造する地たばこブランドがあれば、ここまで過激にはならなかったはずなのだ。今の禁煙ムーブメントは、たばこが自然物ではなく工業製品のようになってしまっていることから来るところが大いにある。人々が「たばこの煙は危険」だと思っているのは、彼らの意識から「たばこ=植物」という認識が消えたからに他ならない。

実際に育ててみればわかるが、タバコはただの植物だ。そしてその煙は、薪や雑草の煙とさほど変わらない。差といえば、ニコチンの有無ぐらいである。ニコチン自体には肺がんや肺気腫を引き起こす作用はないから、タバコの煙だけが異常に嫌悪され、キャンプファイヤーや薪ストーブの煙がスル―されているのは滑稽である。

そもそも、タバコは古代南米人やマヤ人によって、今ではその原種が見つからないほどに人為的に改良され、少なくとも1000年以上喫煙に利用され続けてきた植物なのだから、人間がたばこによって多大な害を受けることは、進化生物学的に言ってありえないはずだ。

話を元に戻せば、今の禁煙ムーブメントの根本は、人々の「たばこ=植物」という認識の欠如と、そこからくる不安だ。だから、日本各地に農産物としてのまっとうなたばこを作る中小企業が生まれれば、この禁煙ムーブメントに対しある程度の牽制ができるに違いない。

そのためには、たばこ事業法を改正し、新規参入の禁止を撤廃し、中小企業が自由に参入できるようにすることが必須だ。

利害関係者であるJTも、原料葉の全量買い取り制度や、政府の口出し(政府はJTの筆頭株主である)から解放されれば、今より大きく利益を伸ばすことができるだろう。

かつては7万戸以上あったタバコ農家も、現在はもはや8000戸ほどしかないのだから、もういい加減制度に甘えるのはやめて、自分たちで6次産業化を図るべきだ。ビールですら256社の中小企業があるのだから、産地ごとに一、二社の地たばこメーカーを作ることぐらいは可能なはずだ。それに、JTが完全民営化されれば、独占禁止法の規定によって、おそらく生産拠点の一つや二つは、国やJTから譲渡してもらえるだろう。その設備を使って、「国産葉100%です」みたいなコンセプトで売り出せば、絶対に一定数の固定客は付くはずだ。

地たばこの復興は、たばこに対する風当たりがまだそこまで強くない今のうちにやらないと、もう永遠にその機会は訪れない喫緊の課題だ。政府や業界関係者にはぜひとも参入規制の緩和をお願いしたい。江戸時代や明治初期みたいに、地方ごとに個性的な地たばこブランドがあったらなら、今より絶対に面白い。

※鶴蒔靖夫著 「日本たばこの挑戦」参照

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