「JTの完全民営化=製造独占の廃止」は専売公社廃止の時点では既定路線だった

現在、日本でたばこを製造する権利を有するのはJT、すなわち日本たばこ産業だけだ。個人が自家用に製造することも、新たな企業が新規参入することもできない。

この制度はもともと、1904年に、政府が当時全国に5000社以上あったたばこ製造業者を一つにまとめ、たばこ産業そのものを国有化したことが始まりである。当時の政府は、日露戦争の開戦を目前に控え、莫大な戦費をねん出する必要があったのだ。

尤も、5000社を一つにまとめたのだから、損を被る利害関係者も数多く、かなりの反対運動があったようだが、さすがに国の一大事とあって、国民も業界関係者も、しぶしぶ専売制を受け入れた。この専売制、つまりたばこを公的な事業として国が独占する制度は、1985年に専売公社が民営化されるまで80年間続いた。

専売公社が民営化されたのには二つの要因がある。1つは、経済のグローバル化がすすみ、公社という非合理的な形態ではもはや世界のたばこメーカーと戦えなくなりつつあったこと。そして2つ目はアメリカや外資系のたばこメーカーからの圧力である。当時の日本政府は、たばこ製品の関税をゼロにするか、外資系メーカーの日本国内での製造を認めるかという二つの選択肢を迫られたのだ。

そこで日本政府がとったのは前者で、これ以降、日本でもマルボロなどの海外製たばこが関税ゼロの普通の価格で手に入るようになった。年配の人は私なんかより詳しいと思うが、専売公社時代は海外旅行の土産で普段は高額で買えない外国産たばこをたくさん買ってきたらしい。

それではなぜ後者の選択肢=外資系メーカーへの国内製造権の付与を行わなかったのかといえば、それは単にタバコ農家を保護するためだ。日本国内で栽培されるタバコは、当時も現在も、国際標準価格の倍以上の価格である。穀物やタバコなどの作物は、労働コストが高く土地の狭い日本で作るには割に合わないので、どうしても価格が高くなってしまうからだ。でも当時はまだ約8万戸のタバコ農家がいて、彼らの声はある程度大きかった。そこで政府は、JTの株式のうち一定以上(時代によって変わるが、現在は3分の1以上)を常に政府保有とし、JTに農家が生産した原料タバコの全量買いとりを義務付けるという制度を作ったのだ。その制度の維持のために、JTの日本国内での製造独占は必須だった。独占がなくなり、国内で自由競争が起きれば、割高な国産原料は安い海外産に置き換わってしまうからだ。この中途半端な名ばかり民営化は、それから現在まで30年以上、変わらずに存続している。

しかし、専売制が廃止された時の政府の方針としては、この中途半端で筋が通っていない状況を30年も続けることは想定していなかった。財務省が公開している、「日本たばこ産業株式会社の民営化の進め方に関する中間報告」というページには、“JTの経営形態のあり方については、専売制度改革当時から完全民営化を目指すという基本的な方向性が示されており・・・”とはっきりと書かれているが、この“完全民営化”というのはすなわち、JTによる製造独占を廃止し、新規参入を自由化することである。

私が常々主張している新規参入の自由化は、国の意図に反しているわけでは全然ないのだ。

JTにしても、完全民営化がなされ、国産原料買い入れから解放されれば、年間200億ほどのコストダウンが可能だから、国内での競合相手が増えることを勘案しても、むしろ完全民営化を望んでいるはずだ。この200億は、国際競争が苛烈になる中で、いつかは重大な足枷になるからだ。

残るステークホールダーとして一番喧しい存在(震災後の政府のJT株式売却に猛反対していた例をみればわかる!)であるタバコ農家の数も、30年で約十分の一に減り、もはや票田としての価値はない。政治家もそろそろ彼らを見放すだろう。

そもそも、何の工夫もせずに育てたものが固定価格で全量買い取りされる制度が甘すぎるのだ。米でも野菜でも果樹でも、農家たちは、個々の工夫によって画期的な作物を作ったり、生産性を上げたりして、とっくに自立し始めている。彼らは自由市場を戦いながら、常に新しい価値をわれわれ消費者に提供し続けてくれている。

それに、よくよく考えてみれば、タバコほど6次産業化・地域ブランド化しやすい作物もなかなかない。明治時代には大小合わせて5000社ものたばこメーカーがあったのだから、完全民営化しても、各都道府県に1つずつ“地たばこメーカー”が存在できるぐらいの市場規模はまだまだあるだろう。日本酒のように、地方ごとに特色のあるたばこがたくさんあれば、こんなに面白いこともないはずだ。私なら、JTのものより地元臭さのある地たばこを買うと思う。

改革時に完全民営化の方針が決められていたなら、政府はそろそろ重い腰を上げるべきだし、喫煙者はそれを主張するべきだ。今やらなければ、「たばこ=悪」という流れは一層すすみ、国産たばこや日本のたばこ文化は未来永劫途絶えてしまうだろう。タバコ農家も、育てたタバコに誇りを持っているなら、完全民営化に反対などせずに独自の自立戦略を考えてほしい。

禁煙がより進むであろうこの先、われわれ喫煙者に残された道は、今のうちから“地たばこ”のようなジャンルを作っておいて、それにオーガニック的な要素を加えるなどして、うまくこの時流を潜り抜けていくぐらいしかないと思う。

JTによる製造独占は岩盤規制の最たるものだが、規制改革が時流となっている今こそ、政府にはぜひこの規制の撤廃を検討してほしい。

タバコ種子はこちら

植木鉢で栽培するタバコ

手刻みの煙草を出すカフェとかあったら、結構流行ると思う

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