タバコの花を徹底観察してみた

われわれが普段喫煙しているたばこは、タバコ属のニコチアナ・タバカムという種の植物の葉を乾燥させ、適切な水分量・温度のもとで数か月~数年発酵させたものである。

現在の日本ではたばこの自家製造が禁じられているため、自家製造用にニコチアナ・タバカムを育てる人はいないし、この植物は美観的な面では特にこれといった長所もないから、観賞用として育てている菜園愛好家も少ない。

そんなわけで、この植物の花についても、詳しい情報はほとんど出回っていない。

今回は、そんな珍しいニコチアナ・タバカムの花を、徹底的に観察してみた。

花はどこに着くか

ニコチアナ・タバカムは、品種によって多少の差はあるものの、基本的には、一本の太い主軸に、数十センチの大きな葉を10~30枚つける。

花はその主軸の先端部、地上から2mぐらいのところにつく。「x枚の葉がつくと花が出る」というのは品種ごとにだいたい決まっていて、たとえば日本在来の遠州葉などは、4,50枚という大量の葉を茂らせた後でないと花が咲かない。(生産量増大に貢献するこの形質は、意外にも劣性形質である)

うちの採種圃場でも、品種ごとに花の咲くタイミングが違うのがはっきりと観察できる。

花の数は大体50個ほどで、主軸から枝分かれした側軸の先端に咲く。

ちなみに、タバコを商業栽培する農家はほとんどの場合、花が咲く前に主軸の先端を切り取り、花に余計な栄養を取られないようにしているから、タバコ畑に行っても、この写真のような光景には出会えない。

花の寿命

花の寿命は、残念なことに3日ぐらいしかない。

しかも、3日目にもなると花の先端から茶色く変色し、お世辞にもきれいとは言えない感じになってくる。さらに悪いことには、枯れて変色した花の残骸は、雨に当たると発酵し、何とも言えない甘くて不快な匂いを発する。

ニコチアナ・タバカムは、花を観賞するにはあまり適していなそうだ。

花を横から見てみる

花は横から見るとトランペットの先端のような形をしている。

あえて言うなら、オシロイバナに似ていなくもない。

全長は6cmぐらいで、品種によって多少の差異はあるものの、花の先端が薄くピンクがかっている。後述するが、ニコチアナ・タバカムの中には、ピンクというより赤に近いけばけばしい色の花を咲かせる品種もある。

花を正面から見てみる

正面から見た花は、五角形の星形で、五稜郭のような形をしている。

めしべは一本で、柱頭の色は緑色。

おしべは5本あり、先端には押し麦を二つ重ねたような葯がついている。

めしべとおしべはともに花の先端からあまり突出しない。私の観察したところによると、栄養状態の悪い土壌で育てると、めしべはより花の奥の方にとどまる傾向があるようだ。この傾向はナスのそれに似ている。

花を真っ二つに切ってみる

子房の部分をよく観察するために、花を真ん中で切ってみた。

子房は、花の根元の部分、ちょうどガクに包まれる形になっている。

子房の中には、数百個の胚珠が格納されている。

めしべの先端に受粉した花粉は、花粉管をこの子房まで伸ばし受精する。

めしべの軸の長さは4cmほどだが、数ミクロン単位の小さな花粉からしてみれば、その距離は結構な距離である。人間のスケールに換算してざっと計算してみると、この4cmはハーフマラソンぐらいの距離だから、花粉の生命力の強さには驚かされる。

あいつら、ハーフマラソン完走した後に、受精の儀をやってたのか・・・、と思うと、胸が熱くなった。

花粉も観察してみる

マイクロメートル単位の花粉を目視で観察することは当然ながら不可能だが、あいにく私は顕微鏡を持っていないので、今回は、花粉“たち”の集まった姿でご勘弁を。

おしべの先にあるクリーム色の粉が、タバコの花粉である。

一つのおしべからはおそらく数万個の花粉が生産されている。

花粉はやや粘着性を帯びていて、そよ風程度では飛散しない。これは、タバコの花粉が虫によって媒介されることを示している。が、おしべとめしべがごく接近しているため、媒介虫が来なくても高確率で受粉する。なので、交雑防止のために袋がけしても種子生産に問題は来たさない。

風変わりな花を咲かせる品種もある

タバコの花の観察については、上述してきた通りである。が、最後に、普通のタバコとは一風変わった花を咲かせる品種について紹介しておこう。下の写真がその品種の花である。

一見すると同じタバカム種の花には見えないこの花も、「レッドロシアン」という品種のタバカム種のタバコの花である。

この品種の花は、普通のタバコの花よりは明らかに濃い色をしているのだが、これもれっきとしたニコチアナ・タバカムである。なので、この品種と普通の品種を交配させてもちゃんと受粉し、種もできる。葉の形や植物体の外形も普通のタバコと変わらない。花の色だけが著しく違うのだ。

どうやら、タバコの花のバリエーションは結構広いらしい。

普段は着目もされず、利用もされないタバコの花だが、レッドロシアンのような形質を人為的に蓄積させていけば、鑑賞用として十分な美観を備えたニコチアナ・タバカムも作出できるかもしれない。

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花タバコは、夜咲く。

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