アメリカから種子を輸入するのが大変だった話 #1

ソクラテスの煙草で、「違法行為に用いないこと」という契約のもとで販売しているタバコの種子はすべて、アメリカから持ち込んだ種子を、うちの採種圃場で栽培・選抜・採種したものです。今回は、それらの遺伝資源を、アメリカから正式な手続きを経て輸入するのがなかなか骨の折れる仕事だった、という話をします。

さて、植物マニアや、植物を仕事にしている人にとっては周知の事と思いますが、外国から植物を持ち込むには、ほぼ例外なく、“検疫”という手続きをしなければなりません。ここでいう「植物」とは、生の植物体、乾燥した農産物、種子などのことで、検疫は、それらの植物に、日本にはいない害虫、細菌、ウイルスなどが付着していないかどうかを検査することを言います。

検疫のやり方は植物種によって異なり、検疫所での簡単な目視検査や、ややこしいものでは、その植物の原産地(畑など)での現地の検査官立会いの検査などがあります。例えばトマトの場合、近年、ウイロイドという、ウイルスよりもさらに小さい病原生物が見つかったため、その検疫は後者のような厳しいものになっています。

また、どんな植物種であろうと、輸出元での簡易的な検査は必須とされています。植物を日本に輸入する人は誰でも、最低限の条件として、現地で検査を受けたことの証明書を持っていなければなりません。この証明書を検査証明書phytosanitary certificate)と言います。

幸い、タバコは、栽培地での立会検査などは必要とされておらず、現地で簡単な検査を受け、検査証明書を取得し、日本の空港での目視検査を通過すれば誰でも種子を輸入することができます。

・・・

そのはずなんですが・・・

そう簡単に事が運ばないのが世の常で、アメリカでその「簡単な検査」を受けるまでがめちゃめちゃ大変でした。

私は、留学生という時間的な余裕のある身分でアメリカに滞在していたので、どうにか証明書を取得できましたが、すべての手続きに要した時間は1か月をゆうに超えていましたので、旅行のついでに種を輸入しようとしていたら、たぶん失敗していたことでしょう。

 

まあ、どこがどう大変だったのか、ことのいきさつを順に説明していきましょう。

私はアメリカに行く当初から、帰国時にタバコの種子を日本に持ち帰ることを計画していました。私がアメリカに滞在していたのは、夏から春にかけての約半年強の間です。種子というのはいわば生ものですので、なるべく新鮮な種子を入手するために、アメリカの種苗会社が在庫を入れ替えた後、つまり、秋の終わりごろに種子を入手しました。

そして種子が到着するとすぐに、私は、滞在中のカリフォルニアで検査を受けるべく、州の検疫所を探しました。この時初めて、私は自分の認識不足を痛感します。

日本からアメリカへ行く際、私は日本の在来野菜の種子をアメリカに持ち込むために、日本の検疫所で検査証明書を取得していましたので、アメリカの検疫所も日本のそれのように個人の検査要請にすぐに対応してくれるだろうと思っていたのです。それに、私はカリフォルニアの州都サクラメントに滞在していたので、行政機関には比較的簡単にアクセスできると思っていました。

しかし、おそらくアメリカ人は、個人が種子を輸出するときにわざわざ検査などしないでいいと思っているのか、はたまた種子を輸出しようとする人自体が存在しないのか、(たぶん前者です。私がアメリカに種子を持ち込んだ際には、空港でこちらから申告したにもかかわらず、「今忙しいから!勝手に持ち込んでいいよ!」と華麗にスルーされましたからw)インターネット上で公表されている個人向けの検疫所の窓口はありませんでした。

 

そこで、まずは近所にあったそれらしき施設、USDA(U.S. Department of Agriculture)のUS Animal Plant Health Inspectionのオフィスに行きました。

で、二階の受付に行って、

「検査証明書がほしいんですけど、ここですか」

みたいに聞いたら、

「いやここは動物専門だから、植物ならダウンタウンだね。あそこにUSDAのビルがあるから」と、おばちゃんに言われました。

こちとら自転車で行動してんのに、簡単にダウンタウンとか言うなや!そもそも動物専門ならUS Animal Plant Health Inspectionじゃなくて、US Animal Health Inspectionだろおおお!と思いましたが、まあ仕方がないので、1時間ぐらいかけてダウンタウンに向かうことにしました。

途中、自転車をこぐ気が失せたので、自転車ごと路面電車に乗ってダウンタウンに戻り、USDAの州本部につきました。

そこで今度は受付の黒人女性に、さっきと同じことを聞きました。

「植物検疫受けたいんだけど、ここでしょ?」みたいに。

すると、彼女はどこかに電話した後で「それならここに行けばいいと思う」といって、また違う住所の書かれた紙を渡してきました。

たらいまわしにされ過ぎワロタwと思いましたが、その住所はダウンタウンの北、川を渡って5㎞ぐらいのところだったので、私はそのまま自転車で行くことにしました。

 

今思うと、これは明らかに判断ミスでした。

 

というのも、サクラメントのダウンタウンの北部はわりと治安が悪いところだったのです。

そのことに気づいたのは、街の中心部から10分ぐらい自転車をこいで、貨物列車の線路と道路の立体交差みたいなところに差し掛かった時でした。その立体交差の歩道(イメージ的には環状八号線の地下歩道みたいなところ)のど真ん中に、柄の悪そうなのホームレスらしき人が3人たむろしていたのです。

ご承知の通り、アメリカには日本とは比較にならないほど多くのホームレスが居ます。別にホームレス全員が悪い人だとは思いませんが、私は本能的に危険を感じ、彼らの10mぐらい前で立ち止まり来た道を引き返すという、彼らからすれば明らかにおかしい行動をとってました。

その時は幸い何もなかったのですが、その後は歩道を走るのをやめました。正直心臓バクバクでした(笑)

あとで現地の友人に聞いたら、やはりそこは少し危険なエリアだったようです。

その立体交差を車道から攻略した後は、リッチなエリアより明らかに状態の悪い路面や、フェンスに寄りかかっているホームレスや、わざわざそこに配置されたような警察所や、時折いる黒人の若者の集団をみて、「ここは自転車では来ないほうが良いエリアだわ・・・」と感じながらも、あと少しだし、と目的の施設まで行ってみることにしました。

アメリカでの自転車移動はいろいろな意味で疲れます。まず、個々の家や道路が大きいので、その総体である街も大きく、日本の感覚で自転車に乗ると、目的地まで遠すぎます。そしてやはり、ところどころに危険エリアがあり、そこを通らないようにするとまた時間がかかります。治安の良いエリアと悪いエリアが道一本はさんで隣り合っていたりするし。

アメリカ人が近所のスーパーに行くのにも車を使う理由がよく分かりましたね(笑)

ということで、#1はここまで

#2に続く

 

写真は、日本からアメリカに種子を持ち込むために日本の空港で取得した検査証明書。出発当日の朝に、アポ無しなのに、2人がかりで丁寧に検査をしてくれました。アメリカの空港で前述の通りスルーされたので、検査官さん達の仕事は結果的に徒労に終わりましたが(笑)

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