TPPでJTの製造独占はなくなるのか!?

現在の日本では、JT以外の者が国内で製造たばこを製造することは認められていない。もしも個人が製造たばこを製造した場合、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されることとなる。

たばこ事業法第八条

製造たばこは、会社(JT)でなければ、製造してはならない。

筆者は、この条文が自由主義時代の現在においてあまりにも時代遅れであり、個人の幸福追求権や職業選択の自由を奪っているという点でも問題があるから、いち早く廃止されるべきだと思っているが、どうやら、この条文を消し去る可能性をもった一筋の光が今まさに差し込もうとしている。

 

その光こそが、今年の春に大筋合意を達成したTPPである。

 

ここからは、TPPがどのようにしてたばこ事業法第八条の「新規参入の禁止」を撤廃に追い込むのかというシナリオを書いていこう。(これはあくまで可能性の話です)

まず、TPPの基本理念が、国家という枠を超えて企業や個人が自由に貿易や経済活動を行えるようにし、そのために規制を限りなく撤廃していこうというというものであることは押さえておこう。

現在の日本の状況は、外資系のたばこメーカーが日本国内に研究や製造の拠点を置くことができないという点で、外資系メーカーにとって明らかに不利な状況であると言える。この状況はTPPの理念に明らかに反しているから、TPPの施行によってJTの製造独占は日本から消え去る・・・

と、誰もが思うだろうが、実は、現在公開されているTPPの条文によると、たばこ産業については、国ごとの政策決定の自由がある程度保障されることになるようだ。まずは下記のTPPの条文を読んでみてほしい。ちなみに、第二十九章はTPPにおける例外措置について規定している章である。

第二十九章五条 たばこの規制のための措置

締約国は、自国によるたばこ規制のための措置(注)に対する不服の申し立てに係る請求について第九章(投資)第B節(投資家と国との間の紛争解決)に定める利益を否認することを選択することができる。当該締約国がその選択を行った場合には、当該請求は、同節の規定による仲裁へ付託することができない。当該締約国は、当該請求について同節の規定による仲裁への当該請求の付託の時までに利益を否認することを選択しなかった場合には、その手続きの期間中に利益を否認することを選択することができる。当該締結国が当該請求について利益を否認する場合には、当該請求は棄却される。

注 たばこ規制のための措置とは、締約国の措置であって、製造されたたばこ製品(たばこを原料とする製品およびたばこから得られる製品を含む。)の生産若しくは消費、流通、ラベル、包装、宣伝、マーケティング、販売促進、販売、購入または使用に関するもの及び検査、記録、報告の要求等の取締措置を言う。たばこ製品の製造者が保有していないたばこの葉または製造されたたばこ製品の一部でないたばこ葉についての措置は、たばこの規制のための措置ではない。

法律や条約の文章というのはまことに読みにくいもので、何を言っているのかわかり難いが、上の条文は、おそらくオーストラリアで起きたフィリップモリスによるISD訴訟のような案件を対象にしているのだろう。興味がある人は検索すればこの案件がどのようなものだったかわかるはずだ。

さて、TPPの条文にこのような記載がされている限りは、日本国内でのJTの製造独占が直ちに廃止されることはないと考えるのが妥当であろう。

そうなると、日本でのJTによる製造独占はこれからも続いていくのか?といえば、そうはならない可能性も大いにある。実はここからの部分が最も大事なところである。

上の引用文の下段部には

たばこ製品の製造者が保有していないたばこの葉または製造されたたばこ製品の一部でないたばこ葉についての措置は、たばこの規制のための措置ではない。

と書かれている。これはつまり、原料用の葉たばこについては、TPPの規則を当てはめていくという意味である。現在、非関税障壁として存在している、「JTによる国産葉タバコ全量買い取り制度」のようなものは、TPPのルールに基づいて廃止に追い込まれる可能性があるのだ。

JTによる製造独占は葉タバコ農家保護政策である」という記事で書いた通り、日本国政府が30年前の専売公社民営化でJTだけに製造独占を与えたのは、葉タバコ農家を保護するためであった。

しかし、TPPによって葉タバコ農家が全滅に近い状況に追い込まれた場合、もはや守る対象である農家が存在しなくなるのだから、JTによる製造独占という異常な状況は廃止されるのが資本主義国家としての順当な成り行きとなるはずだ。

また、30年前の専売公社民営化は、外資系たばこメーカーの圧力によってなされたところが大きいが、TPPによって、葉タバコ農家保護というJTの製造独占の根拠が消え去れば、外資系メーカーが再び圧力をかけてくることは容易に予想できる。外資系メーカーとしては、喫煙者が多い日本に製造や研究の拠点を置くことは、長いスパンで見れば大きな利益となるからだ。

ソクラテスの煙草としては、今後10年以内になされるであろう日本の煙草業界の再編に常に目を光らせ、次のたばこ事業法改正の際には「新規参入の自由化と、個人による自家製造」をねじ込むべく、今のうちから、アマチュアの葉タバコ農家を増やしていきたいと思っている。仮に20万人のタバコ栽培愛好家が日本に誕生すれば、民衆の力によって上記の目標は達成できると考えている。

既得権益にまみれた日本という国は外圧によってしか変わることができない国だ。これは歴史が証明している。そういった意味でいえば、今は、たばこ事業法を改正し参入の自由化と個人による製造の自由を勝ち取るための好機であると言えるのではないだろうか。

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