#6の続き
今回で「アメリカから正式に種子を輸入するのが大変だったシリーズ」は最後です。
ロサンジェルス国際空港を飛び立ち約半日後の午後9時ぐらいに、私の乗った飛行機は成田空港に到着しました。
入国審査を通過し、ベルトコンベアから出てくる荷物を受け取ったあと、普通の人ならば税関で関税のチェックを受けてそのまま空港を出る訳ですが、私は植物検疫の手続きをしなければならなかったので、税関と同じフロアにある検疫所に向かいました。
検疫所のカウンターは、一番左のベルトコンベアのそばにひっそりとたたずんでいました。検疫所の写真を撮るつもりでしたが、税関フロアはセキュリティー上の問題という謎の理由で写真撮影禁止なので自粛しました。
検疫所には3人の職員がいました。私の他に検疫を受けようとしている人はおらず、空いていました。私は早速、タバコの種子と検査証明書をショルダーバッグから取り出し、検疫官に検査をお願いしました。
「タバコの種子?」と少しあっけにとられた様子でしたが、別に違法なものでもないので、手続きはスムーズに進みました。
途中、検査証明書の件で横浜防疫所のAさんにお世話になったことを伝えると、やはり同じ役所の人なので、名前ぐらいは知っているよということでした。
検査証明書は、原本を検疫所が保管するのが決まりらしく、私が持ち帰ることはできないということでしたので、この時だけ写真撮影を許してもらい、原本の写真をとっておきました。
写真を撮った後は、奥の部屋で原本のコピーを撮ってもらい、私はそちらを持ち帰ることにしました。ほんとは原本を持ち帰りたかった・・・。
保管の期間が過ぎたら返してもらえたりしないかな。
検疫所での実際の検査は、種子の袋を何個か開封し、目視で異常がないことを確認するだけの簡単なものでした。検査に要する時間は5分もかかっていなかったでしょう。
言ってしまえば、アメリカでサンダースさんがやっていた仕事をもう一度やっただけなので、日本の検査官の仕事は無駄な仕事です。農水省さん、検査証明書が無くても検疫をやってくれるような制度にしませんか?
まあそんなわけで、私が持ち込んだタバコの種子については、何も異常がなかったということで、“検疫済み”のシールが張られ、これで無事に、“正式な手続きを経て”日本のたばこの将来を担うかもしれない遺伝資源を輸入することが出来ました。
実はこの時、植物全般の愛好家の私は、他にも面白そうな植物の種子をアメリカから日本に持ち込もうとしていました。それは、“遺伝子組み換え作物”の種子です。
もっとも、これについては検査証明書も取得しておらず、完全にダメもとでした。
私が持ち込んだのは、遺伝子組み換え(であろう)大豆と、黒インゲンの種子で、アメリカのウォルマートで安く売っていたものでした。カリフォルニアでは、「この商品は遺伝子組み換えです」という表示は見かけなかったので、穀物の多くが遺伝子組み換え化しているアメリカで、無表示の安いものを買えばそれは遺伝子組み換えだろうという考えのもとに選んだのがこの2種でした。
タバコの種子の検疫が終わった後で、私は、
「あの、ダメもとで持ってきたんですが、こいつらの検疫もやってもらえますか?検査証明書もないんですけど」
と上の2つの作物の検疫をお願いしました。
すると、検査官たちは検査をするまでもなく、
「インゲンと大豆で、アメリカから持ってきたのなら、そのまま持ち込んでいいよ」
とあっさり検査を通過してしまいました。
今考えると、あれは“種子として”ではなく、“食品としての”インゲンと大豆ならそのまま持ち込んでいいということだったのかもしれません。豆類の検疫は本来かなり厳しいはずですから。私の伝え方が足りなかったのは大いにあります。
なので、それらの種はまだ植えていません。豆類は種子の寿命が短いので、たぶんもう寿命が尽きているはずです。
そんなわけで、検疫の手続きを無事に済ませた私は、次に税関へ向かいました。
税関では、「物が物なので」ということで少し疑われ、ほかの持ち物についても調べられました(笑)
下っ端の職員は「タバコの種子って違法じゃないの?」と至極一般人的な疑問を抱いていたようですが、もう一人の40歳ぐらいの税関職員は「栽培するだけなら合法」ということを知っていたらしく、それを下っ端に説明してました。
下っ端くん、もっと勉強しないとだめだぞ!
で、税関も無事に通過し、私とタバコの種子は日本に凱旋入国したのであります!
ー終ー
以上が、ソクラテスの煙草で取り扱っているタバコの種子の遺伝資源を、“正式に”輸入したときのいきさつです。
これまで7回にわたり長々と書きましたが、これらの情報は、タバコに限らず植物の種子を日本に正式に輸入したい人にとって、何らかの助けになるはずです。植物検疫は、それが実際に効果を発揮しているかは別に議論する必要があるにせよ、日本の自然や農業を守るためにできるだけ順守すべき制度です。おそらく、この制度を知らないまま、または知っていても無視して、種子を手荷物に入れて海外から日本に持ち込んでいる園芸愛好家や業者は数多くいることでしょう。ですが、そうした無知で無責任な行動によって、日本の自然や農業が崩壊する可能性は少なからずあることは意識しておくべきです。
とはいえ、今回の手続きはあり得ないほど面倒だったので、制度の見直しも大いに必要だと思いますけどね。
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