タバコの原種は未だ発見されていない。人と共に進化してきた植物がそんなに危険なのか?

どんな作物であれ、人に利用される以前は野生の雑草だった。たとえばトマト(リコペルシコン・エスクレンタム)は、今でこそ直径5cm以上の大きな果実をつける野菜だが、もともとは南米やメキシコの原野に生えているリコペルシコン・ケラシフォルメという、2センチほどの小さな果実をつける雑草だったといわれている。

さて、我々が普段吸っているたばこの原料は、ほぼ100%ニコチアナ・タバカム(N. tabacum)という植物の葉だが、実はこの植物の原種は未発見だ。正確に言えば、遺伝子の分析から、どうやらニコチアナ・シルベストリスとニコチアナ・トメントシフォルミスが交雑してできたらしいことまではわかっているのだが、野生のニコチアナ・タバカムが未だに見つかっていないのだ。原種が未発見ということは、「タバコはそれだけ強度に人の手が加わった植物である」と言い換えることもできる。

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ここからは少し専門的な話になるので適当に読み飛ばしてほしいのだが、ニコチアナ・タバカムは4倍体の植物でゲノム数は2n=4x=48である。 一方、ニコチアナ・シルベストリスやニコチアナ・トメントシフォルミスといった野生のタバコ属植物は二倍体で、2n=2x=24である。これはつまり、人によって栽培作物化された後に倍数性への進化が起きたか、自然界でたまたま4倍体になり、ほかと異なる特性を持った個体または集団を人が偶然見つけ、栽培し、その子孫がのちにニコチアナ・タバカムになったということである。倍数性の野生種が見つかっていないところを見ると、おそらく前者だろう。つまり、ニコチアナ・タバカムは人の関与なしには誕生しえなかった種であるといえる。

人は、喫煙という文化とともに、ニコチアナ・タバカムという種を人為的に、しかもとても長い時間をかけて作り出したのだ。

だとしたら、タバコという植物は、我々人類の歴史が凝縮した傑作だといえないだろうか?

そんな傑作が、潔癖な現代人による、人類史から見ればごく一過性の健康ブームによって弾劾されていくのは、園芸マニアの喫煙者の私としてはまことに悲しい。そもそも、人間と共進化してきたともいえるニコチアナ・タバカムが、ここまで悪者にされるほどに危険だとは、私にはどうしても思えないのだ。そんなに危険な植物ならば、数千年かけてそれを作り出してきた人々はとっくに滅んでいるはずなのに。

独占と寡占という、近現代の社会の都合によって作られたシステムのおかげで、タバコという植物は窮地に立たされている。数千年の品種改良史の結晶が、今や世論の一声で消えてしまうほどに危うい立場に置かれている。そしてどうやら世論はそれを望んでいるらしい。

非力な私一人ができることは、この愛すべき傑作たちの遺伝子をできるだけ多くの植物マニアに届けることしかない。タバコの栽培だけならば誰でも無許可でできる今のうちに、この植物の未来の可能性をできるだけ広げておくのだ。

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