#2の続き
前回までのいきさつの通り、検査証明書を発行してくれる場所を特定できた私は、早速そのオフィスにメールをしました。
担当の人はラモーナ・サンダースという人でした。
私はてっきり、ラモーナというのは男の名前だと思っていましたので、ずっとMr.を付けてメールしていました。この後数十回続くメールのやり取りの後、実際に会いに行ったときに、「え、女だったの?」と恥ずかしい思いをしたことは言うまでもありません(笑)
で、ここからが長くなるのですが、
サンダースさんはまず何の植物をどれくらい検査したいのか聞いてきました。
私は、「タバコの種子をたぶん200種類ぐらいです」と返信しました。
すると1週間ほど待たされた挙句、次のような返信が来ました。
I have researched the requirements of Japan in regard to your tobacco seeds. The statement below is an excerpt of the requirements. The seeds must be “free from” the fungi noted and a phytosanitary certificate ($25) must accompany the shipment. I am checking to see if the seeds must first be analyzed by the lab to determine if those fungi are present.
PC is required. All seeds that are exported to Japan are subject to blotter testing on arrival. If a pest is intercepted that is NOT on Japan’s Nonquarantine pest list, it will be treated as a quarantine pest and the shipment will be refused entry or destroyed.
If the seed sample exceeds the tolerance level for the following pests, refuse to issue a PC – If the seeds are contaminated with more than 0.05 percent (weight ratio) of Claviceps (ergot) sclerotia. If contaminated with more than 0.01 percent (weight ratio) Sclerotinia sclerotia.
I will contact you as soon as I learn more information.
これこそが、私に検査証明書を取得するのに1か月以上もかけさせた憎むべきメールです。
これを簡単に意訳すると、
「タバコの種子をこっちから日本に輸出する場合の手続きについて調べてみたよ。太字のとこが、USDAの職員用データベースに載ってたやつね。もしかしたら簡単な検査じゃなくて、ラボでの精密検査(かなり高額)が必要かもしれない。
タバコの種子は、PC(Phytosanitary Certificate)が必要です。日本に送る種子は到着時に全部ブロッターテストされます。あと、日本の検疫で非対象となっている菌以外の菌が検出されても、日本では受け入れ拒否されます。それと、これから挙げる種類の細菌が許容レベルを超えたら検査証明書を発行しちゃだめだから。重量比0.05%以上のClaviceps sclerotia(麦角菌の一種)、0.01%以上のSclerotinia sclerotia(菌核菌の一種)」
このメールが、なぜ問題をややこしくしているかということを説明するには、検疫の仕組みについてすこし詳しく理解しなければなりません。
そもそも検疫とは、それぞれの国が、海外からの新種の病原の侵入を防ぐことを目的として行っています。なので、それぞれの国は各々で検査基準を定めています。例えば、日本が仮にA菌という細菌の侵入を防ぎたかった場合は、輸入する人に、「A菌がこの作物に付着していないかどうか現地で検査してください」という要求をするわけです。輸入する人は、「日本はA菌の侵入を避けるために、現地でのA菌についての検査を要求していますので、その検査をしてください」と現地の検査官に検査を要請します。
現地の検査官は基本的に、輸出先の国が要求する検査基準にそって検査を行います。なのでたとえば、日本がB菌についての検査を義務づけていない場合、B菌については検査しなくてもいいのです。
では、タバコの種子の場合、日本は輸入先の国に対してどんな要求をしているのでしょうか?
日本農務省の輸入条件に関するデータベース(http://www.pps.go.jp/eximlist/Pages/exp/condition.xhtml)
に“原産地アメリカ/タバコ/種子”と入れれば下のような結果が出てきます。
通常の検査で持ち込みできるもの
該当する植物は、一定の条件を満たせば輸入できます。この一定の条件とは、輸出国政府機関が発行した検査証明書(※)があること、輸入できる場所が限られていること、植物防疫所の検査を受けて合格すること、等です。 詳しくは最寄りの植物防疫所にお問い合わせください。
※苗、穂木、球根、種子等の栽培用植物、野菜、果物、切り花等の消費用植物及び乾牧草等の飼料用植物等の輸入には検査証明書が必要になりますが、輸出国植物検疫機関の有無により取扱いが異なる場合があります。
この“通常の検査で持ち込みできるもの”とは、日本の検疫制度の中で一番難易度が低いもので、“通常の検査”とは、目視による病害虫の有無のチェックと同義です。
つまり、日本はアメリカの検査官に対して、目視検査しか要求していないことになります。
しかしサンダースさんは、「アメリカ農務省のデータベースが、日本向けのタバコの種子は麦角菌と菌核菌の検査をしなければならないと指示しているので、ラボでの検査をしなければならないわよ」と主張しています。
ラボでの検査は目視検査に比べてかなり高額で、時間がかかり、そして何より、必要となるサンプルの量が私の購入した種子の総量を超えていました。
私は何としても目視検査で通したかったので、ここから粘りに粘ることになります。
#4へ続く
写真は、アメリカのたばこに貼ってある“徴税済み”のシール。アメリカでは州ごとに税率が異なるため、このようにして転売などの不正行為を防いでいるようです。日本でもこのように細かな税制を導入すれば、地域それぞれの特色がある“地たばこ”を解禁しても何の問題もないはずなんですがね。