植物の種子には寿命がある。
そしてその寿命は、植物の種類によって様々だ。
たとえば、ニンジンやネギ類は種子の寿命が短く、だいたい2年ぐらいで発芽しなくなる。一方、トマトやナス、カボチャなどの種子の寿命は比較的長く、5年ほどは発芽能力を保つことができる。
タバコの種子はというと、これも寿命が長い部類で、だいたいトマトやナスと同じくらいだといわれている。
もっとも、この“種子の寿命”は、種子を適切な環境(低温・低湿度)で保存した場合にのみ適用できる目安の数字であり、高温や高湿度といった劣悪な環境で保存した場合には、本来の寿命に関わらず、種子の発芽能力は急速に失われる。
・・・というのが、菜園家の間では一般的な常識なのだが、先日、その常識を覆すような出来事があったのでここに書き留めておこう。
車の中でひと夏を越した種子が芽を出した!
先日、車の中を掃除していたところ、シートの下から一昨年の夏に採種したタバコの種子がでてきた。たぶん、去年の春ごろ知人にサンプルとして見せるつもりで持って行ったときの余りだと思う。
まあともかく、車の中に丸々一年以上置きっぱなしだったということは、この種子は、夏の間、60℃近い高温環境に何度もさらされていたはずだ。
60℃の高温に何度もさらされるというのは、種子にとってはかなりの“劣悪な環境”であることは間違いない。先ほども言ったように、劣悪な環境で保存されていたとなると、いかに寿命の長いタバコの種子とはいえ、発芽能力はすでに失われてしまったと考えるのが妥当である。
そんな種など、いつもの私ならそのままゴミ箱へ捨ててしまうのだが、今回は少し魔がさしたので、試しに発芽試験をしてみると、意外や意外、その種はかなり高い発芽率を示した。
下の写真は、吸水させた素焼きの陶器の上に種子を蒔き、一週間ほど経過したあとの試験結果だ。
ご覧のとおり、正確な数字は出していないが、だいたい80%ぐらいは発芽している。80%といえば、うちの店で販売可能なレベルである。
タバコの種子は、私が想像していたよりずっと丈夫だったようだ。
この感じなら、数年間は常温の場所に置きっぱなしにしても問題ないかもしれない。
もっとも、うちの店の販売用の種子に関しては、トラブル防止やリスク管理のためにデシケーターで保存しているし、これからもそれは変わらないが、うちで種を買っていただいた方には、参考までに、「車内に一年放置しても大丈夫なのだから、保存にはそんなに気を使わないで大丈夫」ということをお伝えしておきたいと思う。
また一つ、タバコという植物の強さを思い知らされた出来事であった。
タバコ種子のソクラテスの煙草