私が小学生の頃だから、いまから15年ぐらい前のことだろうか。
「今の子は切り身が海の中を泳いでると思ってるらしいよ」
と、大人たちが言っていたのをなんとなく覚えている。
私は子どもの頃から釣り好きだったから、子どもながらに「そんなことありえねーよw」と思っていたし、我々ゆとり世代もさすがそこまで馬鹿じゃないわ!と今も信じたいのだが、残念ながら普通にあり得そうな気もしている・・・
でもたぶん、劣化してるのは子どもや若者の認識のだけじゃない。批判する側の大人も似たようなものだと思う。
たとえば、
「ねえ、あんたが今吸っているそれ、どういう風に生えてたと思う?」
と聞かれて、ちゃんと答えられる喫煙者はどれぐらいいるのだろう。
日々タバコの世話をしているタバコ栽培愛好家の私としてはまことに驚かされることだが、普通の人々はタバコの生の姿をほとんど知らない。
たとえば、この前とあるカフェで相席になったマダムは、タバコの葉が10cmぐらいの小さな葉だとずっと思っていたのだそうだ。
まあ、そのマダムはたばこを吸わないから仕方ないとして、果たして、「俺が吸っているこれは何なのか?」という問いに、明確なイメージを浮かべて答えられる喫煙者はどれくらいいるだろう?
現代の紙巻きたばこ銘柄の大部分には、そのままでは製品にならないたばこの茎や繊維をドロドロにして紙状に再形成した「リコン」と呼ばれる“葉もどき”が混入されているが、それを知っているたばこ吸いはどれくらいいるだろう?
葉の原産国は?
添加物の種類は?
遺伝子組み換えは?
ここまで来ると、私を含め、もうほとんどの人が知らない。
100年以上ずっと独占され、その製造工程が完全にブラックボックス化してしまったたばこという製品について、人々が知っていることは本当に少ない。
いや、たばこに限らず、今ではほとんどの製品の生産が消費と切り離されていて、我々はもはや「俺は今何を食っているのか?」「俺の家は何でできてるか?」「水はどこからくるか?」みたいなごく基本的な問いにすら、明確に答えることができない。
これは結構悲しむべきことだと思う。
世の中がそう人たちだけであふれかえっていたら、たぶんその世界はすごくつまらない。
たばこの話に戻れば、この国は、法律で「たばこの生産と消費を直接つなげたら違法」と定めているのだから、こんなにつまらないことはない。
私は、一人のタバコ栽培愛好家として、いち早く「栽培のその先」をやってみたいし、自分で育てたものを自分で加工して味わってみたい。
うちで種を買ってくれた菜園家も皆そう感じておられると思う。
ただ、われわれは民主国家の良き構成員としての自覚があるから、それをやらずに、制度の改正を訴えているのだ。
税を徴収したいなら自作税を導入してくれても全然いい。
とにかく、切り身の魚が泳いでいる世界はもうたくさんだ。
タバコ種子のソクラテスの煙草