ここ数年で、スマホを使っている人はだいぶ増えた。
というか、いまだにガラケーの私みたいな人がもう天然記念物になっているぐらい、みんなスマホにしてしまった。
そんなスマホ市場の中でも、アップルのiPhoneは断トツのシェアを誇っている。
2017年1月時点の調査では、昨年9月~11月の販売台数のうち約60%以上がiPhoneだったらしいから、シェアとしては相当なものだ。
一方で、たばこ業界に目を転じてみれば、フィリップモリスの加熱式たばこ「iQOS」は、現在、かなりの勢いで販売台数を伸ばしているらしい。
言われてみれば、確かに、この前都会のファミレスに行ったときに、結構多くの人がiQOSを吸っているのを見て、「おお、結構みんなiQOSなんだ」と実感したし、一昨日、事務所に弟が来たときに、いつの間にかiQOS派になった彼が、「アイコスで十分だよ」と言っていたから、アイコスは第二のたばことして、“普通に”吸えるぐらいクオリティーの高い製品のようだ。(上の写真はその時撮らせてもらった)
田舎で生活しているとあまり感じなかったが、iQOSは着々と従来のたばこを駆逐している。
私は、いわば積極的喫煙主義だから、いまのところiQOSにする予定はない。が、あの勢いを見ると、「タバコの種子」という形で、ささやかながらたばこ業界にかかわっているものとしては、危機感を感じずにはいられない。スマホ市場で起こったことがたばこでも起こるのではないか、と思うのだ。
iQOSは第二のiPhoneになるか?
偶然なのか、狙っているのかはわからないが、iQOSもiPhoneも、頭文字が“i”である。
そして、どちらもアメリカの企業が開発した製品だ。
しかしながら、いま私が着目したいのは、これら二つの製品の表面的な類似性ではなく、これらの製品が、急速に日本企業のシェアを奪った、または奪いつつあるという点だ。
思えば、iPhoneが出てきたころ、ほとんどの日本人はそれを使おうとは思わなかったし、みんな「ガラケーで十分でしょ?」と思っていた。それは消費者だけじゃなくて、開発者もそうだったはずだ。
ところが現在では、スマホは必需品だし、その必需品のシェアの60%以上がiPhoneに奪われている。
この十年の間に、日本企業は次々とガラケーから撤退を余儀なくされ、かといってスマホの開発にも出遅れた。ケータイ業界は、ガラパゴス化した日本の企業の弱さが一番はっきり顕在化した分野だといってもいいかもしれない。
私は、同じことが“たばこ”でも起こりそうな気がしてならない。
というのも、今の日本に、たばこほどガラパゴス化した分野はないからだ。
たばこは「たばこ事業法」の規定によって、JT以外の者が日本国内で製造することを禁じられた製品だ。
自由主義・資本主義の浸透した現代で、「一社が産業を丸々すべて独占する」という形態があり、法律がその根拠になっていること自体が、冷静に考えればかなりおかしいことではあるのだが、その製造独占のおかげで、JTは大した新規製品開発もせず、価格競争にもさらされず、超イージーモードの市場を約30年にわたって享受し続けることができた。
専売制廃止からの約30年の間、たばこはあまり進化していなかったし、消費者もJTも「これ以上の進化はないよね」と思っていた。少なくとも日本国内では。
しかし、日本人が既存のたばこを吸っている間に、アメリカでは蒸気でニコチンを摂取するヴェイパーみたいな製品が、様々な会社の努力と新たな発想によって着々と開発され続けていた。iQOSはここ数年のぱっと出の商品などではなく、そうした「新商品開発→消費者が試してみる・慣れる」という活発な土壌でこそ、私の弟曰く「iQOSで十分」というレベルの製品に仕上がったのだ。
電子立国として世界を席巻し、余裕をぶっこいていた日本の市場をiPhoneがかっさらったように、製造独占の上に胡坐をかいていたJTが「一人負け」することは、全然ありえないことではない。
また貿易赤字が増える悪寒。
数年前、アベノミクスで大幅な円安が起こったとき、われわれは大幅な貿易黒字を期待した。
ところが、黒字は増えないどころか、赤字が拡大した。
これは、原発停止の影響もあるが、iPhoneなどの高付加価値通信デバイスの輸入量が大幅に増えていたためというのも大いにある。日本の企業は、もはや黒田バズーカの後押しだけでは黒字を出せないほどに、凋落してしまっていたのかもしれない。
もしもこの先、たばこの世界で同じことが起きれば、中毒性がある分、問題はより深刻かもしれない。
ここで、仮に数年後、iQOSが日本の市場をかっさらい、たばこのシェアの半分を奪ったとしよう。
そのとき、喫煙者は今とあまり変わらず大体2000万人いるとして、1000万人がiQOSに転向したらどうなるだろうか?
ご存じのとおり、iQOSは1万円以上もする“高付加価値デバイス”である。
まず本体の分を計算すると、
1000万人×10000円=1000億円
次に、カートリッジ代が、だいたい3日に一箱で、ひと箱460円、半分は税金だとして、
1000万人×120日×230円=2760億円
ネット情報によると、本体は大体1年で買い替えるというから、ざっくりと計算してみても、毎年、約4000億弱のカネがフィリップモリスに吸い取られることになる。
この記事で書いた通り、我が国のたばこの貿易収支は、現在約4000億の赤字である。さらに、日本国内で葉たばこを生産する農家の数は現在進行形で減っていて、昨年度は370億円分しか生産していない。(全国たばこ耕作組合中央会のHP)
アイコスが今の勢いを維持し、このまま日本のたばこ農家が衰退するとしたら、我が国は、おそらく、8000億弱ほどの赤字を、たばこによって毎年垂れ流し続けることになりそうだ。毎年8000億ともなれば、マクロ的にみても結構心配したほうがいいレベルである。
加えて、たばこはやめようと思ってやめられるものではない。
それは、ほとんどの喫煙者が、私みたいな積極的愛煙家じゃなないにもかかわらず、一向にたばこをやめないのを見ればわかる。
だとすると、この赤字は、かなり厄介で定常的な赤字になる可能性は大きい。
もちろん、貿易赤字が悪で、黒字がいいというのは一概には言えない。
だが、このまま、エネルギーで、iPhoneで、iQOSで大幅な貿易赤字を出し続け、それが所得収支を食いつぶすようなことになれば、おそらく、「個人の金融資産で国債を買って、財政赤字を補う」みたいなことはできなくなると思う。
そうなれば、教育や警察、道路や水道、年金、といった行政サービスは縮小され、普通の意味での“豊かな”生活は送れなくなるだろう。
ガラパゴス化の結果が、世界にもまれにみるガラパゴス的豊かさを崩壊させつつあるというのは、残酷な皮肉だ。
近い将来、JTは製造独占を手放すか?
国内での製造独占は、確かに、JTに利益をもたらした。
しかし、喫煙者が減り、iQOSまで登場したとなると、話は変わってくる。
というのも、JTは、製造独占と引き換えに、「国内たばこ農家の保護」という“足枷”を嵌められているからだ。
今の法制度の元では、JTは国内で生産された葉タバコを全量買い取らなければならない。そして、その価格は、国際標準価格の約3倍である。農家と言えども日本国民だから、JTは彼らの生活を最低限支えるぐらいの価格で買わなければならず、新興国やアメリカの大規模農家の作ったものと比べれば、原料葉の価格は圧倒的に高くなるのだ。
先ほども言ったように、昨年度の買い取り総額は370億円だったので、仮にこの“足枷”がなくなり、国内農家から買い取っていた分をすべて格安な外国産に切り替えれば、JTは毎年200億円以上のキャッシュを使えるようになる。
中の人に聞いてみないと正確にはわからないが、JTは一刻も早くこの“足枷”から逃れたいと思っているのではなかろうか?
iQOSの登場で、もしかしたら既存の形態のたばこが駆逐されかねない状況になってきた今、加熱式たばこ開発の原資として、毎年200億の現金を使えるとなれば、JTはいますぐにでもこの足枷を外したいはずだ。
私の弟曰く「JTのプルームテックはダメだわ」らしいので、いまのところ開発はあまりうまくいってないのだろう。
このままでは、加熱式たばこという新ジャンルを、iQOSがすべてかっさらっていく。
政治家や官僚の皆さんは、一度街に出て、iQOSの勢いを感じてきたほうがいいと思う。そして、すぐにでもJTの足枷を外してやるべきだ。国内の葉たばこ農家はもう8000戸ほどしかいないのだから、大した票田じゃない。それに、JT株の30%以上は政府保有なのだから、今のうちに売りぬいて、東芝のメモリ事業でも買ったらいいんじゃないかな(笑) iQOSに負けて、JTが凋落して、株価が暴落した後で売るとか、マジでやめてくださいね?
それと、JTの中の人へ。
これはほとんど冗談ですけど、200億のうち数%を私に出資してくれれば、タバコの種屋という立場から、「どぶろく訴訟」のように違憲訴訟を起こして、改革のスピードを一気に早めることもありえなくはないです。(どぶろく訴訟は自家製造が焦点だったけど、たばこ産業への新規参入の権利にだけ的を絞れば、十分違憲判決が出る可能性があると思いますよ。アメリカの原料サプライヤーやメーカーの外圧も明らかにそういうベクトルをむいているでしょうし)
私は全然引き受けますよ(笑)
それともすでに根回しははじめてますか?