「たばこを吸った手でトマトを触るとモザイクウイルスが伝染する」は本当か?

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ソクラテスの煙草を立ち上げて、鑑賞用タバコ種子の販売事業を始める前、菜園家としての私の興味の対象は固定種トマト、英語圏で“Heirloom Tomato”と呼ばれているものだった。トマトは、日本で手に入るものだけでも相当数の固定種の品種があり、私は数十の品種を集めて栽培し、採種し、自分のオリジナルの品種を作ったりもしていた。

そんな元トマト愛好家の私が最も悩まされたのが、モザイクウイルスだ。

畑にはいつも大体100株ぐらいのトマトを植えていたが、そのうちの10%ぐらいがモザイク病に感染して、抜き取り処分しなければならなかったのだ。

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キュウリモザイクウイルス感染株。生長点が縮れ、成長は止まる

トマトにモザイク病を引き起こすウイルスは、主にトマトモザイクウイルス(ToMV)、タバコモザイクウイルス(TMV)、それにキュウリモザイクウイルス(CMV)3つで、それぞれで感染特性やウイルスの安定性に違いがある。

うちの畑では、大体の場合CMVがメインだったので、デルモンテのCMVワクチン接種苗の樹液を取り出して、それをうちで育苗した苗に接種することで被害は大幅に減っていた。それに、CMV接触伝染や種子伝染しないので、モザイクウイルスの中ではあまり強敵ではないのだ。

だが、ToMVとTMVは、土壌伝染や種子伝染や接触伝染する。つまり、感染した植物に触った手で未感染株に触ると、感染が拡大してしまうのだ。

そんな厄介なTMV、すなわちタバコモザイクウイルスは、その名からわかるように、タバコにも感染する。このことから、菜園愛好家の間では、「たばこを吸った手でトマトを触ったり、芽欠き作業をしたりするとモザイクウイルスが伝染する」という噂がある。

これは本当だろうか?

今回は、タバコ栽培愛好家として、タバコという植物の名誉を守るためにも、この噂について考察してみたいと思う。

そのウイルス、ほんとにTMVですか?


上で述べたように、トマトのモザイク病を引き起こすウイルスは主に3種類ある。

だから、もしもモザイク病が出たからといって、それがたばこ由来だと判断するのはあまりにも性急すぎる。

私の菜園の例でいえば、おそらくほとんどのウイルス病はCMVが原因だった。これは、ズッキーニやキュウリなどにモザイク症状がみられたことと、芽欠き作業によって感染が広がっている様子が見られなかったこと、それにさっき言ったようにCMVワクチンの接種で被害が減ったことが根拠だ。

そもそも、CMVワクチン接種苗なるものが家庭菜園向けに売られているということは、CMVがかなり広く蔓延していることを示唆している。もちろん地域によって異なるだろうけど、今現在全国の菜園家を悩ませているモザイク病は、その多くがCMV由来の可能性が高い。

私の経験に基づけば、たばこを吸った手で作業しても問題はないといえる


これは私個人の経験なので、根拠にならないといえばそうなのだが、私が去年栽培したトマトたちは、たばこを吸った手で育苗や植えつけ、芽欠き作業等をしたのに、全くモザイク症状を現さなかった。

私の今いる場所は、数年前私がトマトに熱狂していたころとは違って、周りの畑から完全に隔離された山間部だから、もしもモザイク病が出たら、それは私の吸ったたばこか、その辺の雑草由来ということになる。

そんな環境でモザイク病が出なかったということは、少なくとも私の行動は、モザイク病の原因にはならなかったということだ。

ちなみに、去年トマトを植えていた場所は、当店の採種圃場の隣だから、採種用のタバコとトマトはごく接近して生えていたことになる。

たばこの製造には、発酵というプロセスがある。ウイルスは発酵中に失活するのでは?


この記事で書いた通り、たばこの製造には、発酵というプロセスが必須である。

発酵の方法は種々あるが、一般的にはタバコの葉を木箱などに入れ、適度な圧力をかけ、その後1年以上、適温で放置するというものだ。発酵過程で、葉の温度は50℃近くまで上がることもある。

私はウイルスの専門家じゃないからよく知らないが、50℃の高温と1年以上の時間を経れば、いかに丈夫なTMVであろうとも、失活し感染能力を失うか、感染能力はきわめて低くなるのではないか?と思う。

そもそも、タバコ畑のウイルス感染株はすぐに抜き取られ、処分されるのでは?


タバコモザイクウイルスは、トマトに限らず、タバコに感染した時にも、感染株に重大なダメージを与えるため、感染株の成長は著しく悪くなる。また、感染は雨滴や人の作業によっても広がるから、タバコ農家がウイルス感染株をそのまま畑に放置するとは考えづらい。

巷での言われようは、「すべてのたばこにウイルスが入っている」というようなひどいものだが、そんなに高い感染率ならば、タバコ農家はそもそもやっていけない。

そう考えると、我々が吸うたばこ製品に、「たばこを吸った手→トマトに感染」という図式が絶対的な法則になるほど、ウイルス感染株の葉が含まれているとは考えづらい。

噂は本当か?


これらのことを考え合わせると、巷で言われているような、「たばこを吸った手でトマトを触るとウイルスが伝染する」という噂は、確かに数%の可能性はあるかもしれないけれど、絶対的な法則だと言い切るのには無理があるのではないかと思う。

ラスティカ種のタバコ(左)とトマト(右)

うがった見方をすれば、この噂はたばこ=悪というイメージから派生した、ある種のプロパガンダだということもできるかもしれない。

まあ、人がたばこをどう思おうとそれは個人の自由なので、この噂が真実だと思えるのなら、トマトを触る前に、手を洗ったりすればいいと思う。

私としては、近年大発生しているキュウリモザイクウイルス(CMV)の震源地は、冬の間にハウスでトマトを栽培し、本来なら寒さで死ぬはずの媒介昆虫を飼っている(と言える)農家だと思っているので、この問題は季節外れのトマトを求める消費者が存在するうちは、まあどうにもならないんだろうなと思っている。

タバコの種子のソクラテスの煙草

タバコの苗の作り方 まとめ編

植木鉢で栽培するタバコ

2件のコメント

  1. 楽しく拝見いたしました。
    いつもはあまりこういうところに様々なご意見が載せられていてもスルーするのですが、
    今回は少しコメントさせていただきます。
    私は大学で植物病理学を専攻しておりました。範囲は特に植物ウイルスです。

    世界で初めて見つかったウイルス、TMVは非常に感染力が強く植物ウイルスの中では最強です。オートクレーブ(121℃20分)という減圧滅菌でも失活しませんし、乾熱というもっと高い温度でも生き残こることがあります。ですので、タバコの製造過程くらいでは失活しません。
    なので、タバコ(製品)にはTMVが失活せずについていることがままあります(検出もされます)。遺伝子(RNA)単体でも感染します。
    ブログにもお書きの通り、主に接触伝染か土壌伝染です。土壌中でも失活しません。世界中での感染が虫ではなく接触でうつっていってることからも感染力が高いことを意味します。

    ただ、ご経験からも、うつってないじゃないかというのもうなずけます。指にTMVがついていても、傷ついた部分や腋芽かきの欠いた部分に直接擦り付けないとなかなかうつらないものです。トマトなどではとくにそうだと思います。トマトで検出されるTMVは大体は近縁のToMVですので、タバコからトマトというのは現実問題少ないと思われます。
    ですので、実際はおっしゃる通りに数%・・感染が成立するかどうかというところでしょう。但し、やはり恐いウイルスのため、タバコ間では感染していきます。生産者さんであれば気をつけるにこしたことはないかと存じます。ご存知かと思いますが、石鹸に弱いですので良く手を石鹸で洗われればよろしいかと思います。ちなみに大学時代はわたしもタバコを吸ってましたが、それはもう細心の注意を払っていました。ウイルスの研究ではタバコ類がウイルスに感染しやすいモデル植物なので、皆タバコを育てているのですが、皆、細心の注意を払っていました。

    あと、感染していれば抜くなりするだろう、とのご意見ですが、タバコ葉は海外のも多いです。海外のタバコ畑は大きいですし、日本人と違い海外の人はそんなにちゃんと見ません。抵抗性品種を植えているのも多いですが、そうでないところもあります(東南アジアなんかほんとにそうでした)。

    皆様いろいろご意見があろうかと思います。わたしのコメントもその一つだと思っていただければ幸いです。

    1. 匿名希望 様へ

      ウイルス専門家さんのご意見、非常に参考になります!

      管理人はどちらかというと文系専攻だったので、植物病理学を学ばれた方からこうしたご指摘を頂けたことは非常にありがたいことです。

      さて、コメント内の「数パーセント」というのは少ない確率のように思えますが、感染株が更なる感染拡大につながるということを考えると、喫煙者の手からのTMV感染も見過ごせない気がしてきました。

      家庭菜園の人はともかく、生産農家さんなどは気を付けたほうがよいかもしれないですね。

      あと、まだ読んでいただけたなら聞いてみたいのですが、個人的にはCMVの宿主植物の多様さに辟易しているところであります・・・あいつらも結構“怖いウイルス”なのでしょうか?

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