「税は独占の根拠にはならない」という記事では、酒と税の例をあげて、JTによるたばこの独占と徴税には何の関係もないことを説明した。
今回は、世間に蔓延するもう一つの詭弁、「たばこの独占は国民の健康のため」についての話をしようと思う。
現在、結構多くの日本人が、「JTによる独占は、たばこという危険な製品による健康被害を国がコントロールし、国民の健康を守るためにつくられた制度である」と思っているが、これは全くの誤解である。
独占を規定しているたばこ事業法の第一条には、法律の目的としてこう書かれている。
この法律は、たばこ専売制度の廃止に伴い、製造たばこに係る租税が財政収入において占める地位等にかんがみ、製造たばこの原料用としての国内産の葉たばこの生産及び買入れ並びに製造たばこの製造及び販売の事業等に関し所要の調整を行うことにより、我が国たばこ産業の健全な発展を図り、もつて財政収入の安定的確保及び国民経済の健全な発展に資することを目的とする。
これを見ればわかるように、この法律の立法目的の中には「国民の健康」という文字も、それに類する内容も一切書かれていないのである。
では、独占制度は誰のためつくられたのか?といえば、それはもちろん、上記引用の“我が国たばこ産業”に関わる人々、つまり、たばこ農家と旧専売公社内部の既得権益者および、それらの人々の票によって支えられている議員たちのためである。
もうすこしわかりやすく言えば、独占は、
①国内のたばこ製造権をJT一社にだけ与え、JTの株式の大部分を政府が保有する。
②競争がない国内たばこ市場で、JTは儲かる。
③たばこ農家は、競争相手のいない裕福なJTに、自分たちの栽培した原料たばこ全量を高額で買い取らせる。
④JTの議決権は、筆頭株主である政府が大部分を持っているから、農家から買い取る原料の価格は政府が決めるに等しい。
⑤議員たちは農家票がほしいから農家に有利なようにJTに介入する。
⑥JTとしては海外産の3倍もする割高な国産原料を使いたくはないが、農家や政府の要求を呑む代わりに、国内での製造独占権とたばこの税率を国際標準に比べて低いままコントロールする力を手にする。
⑦財務省官僚がJTや関連組織に天下りする。
以下②~⑦ループ。
という巨大な利権構図のために造られた制度なのだ。
ここまで読んでもらえればもうお分かりだろうと思う。
たばこの独占は、「国民の健康のため」という理由とは真逆の制度なのである。
そもそも、この制度の根幹である現在のたばこ事業法は、たばこがまだ社会的に広く許容されていた時代に制定されたものであり、健康という視点は初めから存在していない。
たばこが有害なら、国ぐるみで保護するのはもうやめないか?
(たばこが危険であるという説が正しいと仮定して)もし本当に国民の健康のことを思うなら、独占を廃止し、JTを分社化し、競争によって互いを疲弊させ、国産原料の全量買い取り制を廃止し、農家に原料たばこからの転作を事実上強要し、議員たちがたばこ業界に見切りをつけるような制度をつくるべきだ。
医療費や受動喫煙を引合いにだし税率を上げる一方、農業利権や天下りを使って禁煙政策を妨害するのはあまりにも二枚舌の度が過ぎている。
時代の流れからいえば、たばこはもはや政府が保護するべき産業ではないことは明白だ。
※筆者は、たばこの独占には反対だが、たばこを愛する能動的な喫煙者である。誤解なきように。