JTによる独占、新規参入の規制、個人による製造たばこの自作・自家消費の禁止等を定めた、「たばこ事業法」は、専売制が廃止された1985年に、主に農家保護を目的として施行された。
たばこ事業法の立法目的は下記のとおりである。
この法律は、たばこ専売制度の廃止に伴い、製造たばこに係る租税が財政収入において占める地位等にかんがみ、製造たばこの原料用としての国内産の葉たばこの生産及び買入れ並びに製造たばこの製造及び販売の事業等に関し所要の調整を行うことにより、我が国たばこ産業の健全な発展を図り、もつて財政収入の安定的確保及び国民経済の健全な発展に資することを目的とする。
だが、少なくとも農家保護という観点から言えば、この法律はほぼ機能してこなかったといってもいい。それは、この法律が制定された当初全国に約8万戸あったタバコ農家が、この30年で当初の10%、約8000戸にまで減少したことを見れば明らかである。
そもそも、「我が国たばこ産業の健全な発展を図り」という目的の達成のために、JT以外の企業や個人の参入規制を導入したのは根本的な間違いだ。
なぜなら、産業の健全な発展のためには、複数の企業による競争と、競争の果実であるイノベーションや新しいアイデアが必要不可欠だからだ。特定の一社にだけ製造の独占権を与え、その会社の株式の大部分を政府が保有するという前近代的な制度の元で産業が健全に発展するはずがない。
たとえば日本酒なら、様々な酒造業者が互いに競争し、品質を追求しているからこそ、今のように多様で豊かな日本酒業界が存在しているわけだし、原料米をつくる農家も、それらの企業の要求を満たすべく日々研鑽しているからこそ生き残っていけるのだ。
一方、新規参入や競争を拒絶し、一部の者達の利権のネタとなったたばこ業界は、今や完全な斜陽産業になってしまった。
また、当然のことながら、こんな閉鎖的な制度の元では、健全なたばこ文化も育たなかった。その結果、たばこはもはや「税と利権のためのドラッグ」ぐらいの位置づけになりつつある。
でも、たばこはマヤの時代から数えれば1000年以上、日本に伝来してから数えても約400年の歴史を持つ立派な文化であり、低劣なドラッグとして社会から消し去るべきものではない。
法改正は急務
「たばこ事業法」は、「我が国たばこ産業の健全な発展を図り」という立法目的を達成するためには完全に見当違いな内容の法律だったことは、施行からの30年の間にタバコ農家がどうなったか、たばこ文化がどうなったか、を見れば誰にでもわかる。
一方で、この欠陥制度が30年も続く間に、社会的な禁煙の流れは着実に勢いを増している。このままでは本当にたばこが社会から追放されそうなほどだ。
そんな時代に生きているわれわれ愛煙家は、今すぐにでもこの欠陥のある法律を改正し、独占を廃止し、より開かれたたばこ業界を作り、健全なたばこ文化を再構築すべきだ。
前にも書いた通り、日本固有の在来タバコ品種が栽培されなくなっていたりと、われわれが知らない間に状況はもう結構深刻になっている。改革は喫緊の課題なのだ。
幸い、日本にはまだ2000万人の喫煙者がいる。
複数の企業が分け合うだけのパイはある。
たばこの栽培技術を持った農家も、まだ8000戸はある。
だが、このままぐずぐずしていれば、産業全体や文化を立て直す前にたばこ消費が大幅に減少するのは目に見えている。
利権の調整など、課題は多いと思うが、たばこの未来を思うならいまこそ改革を進めるべき時なのだ。