標高の高い当地も最近は温かくなってきて、ソクラテスの煙草の不耕起の採種圃場では今、タバコのこぼれ種が続々と発芽している。
冬の間はマイナス10度ぐらいにまで気温が下がる当地で、湿って凍った土の中で冬を越した種子が、春になるとちゃんと芽を出す。タバコの種子はなかなか強い。
当店の場合、タバコの葉を収穫して利用するわけではなく、タバコの遺伝資源保護のために種子を採種するので、早春のまだまだ寒い時期から温室内で育苗し、なるべく多くの花を咲かせるように促成栽培するから、この芽には申し訳ないが、こぼれ種の芽をそのまま育てることはしない。1月ごろから加温して育てた苗が、もう定植に適したサイズにまで成長しているからだ。
しかし、私のような育て方は、ビニールハウスやガラスが安価で手に入るようになった近代の、ごく特殊な栽培法なのかも知れない。数千年のタバコの歴史から見れば、むしろ「こぼれ種をそのまま育てる」といったような栽培方法のほうが主流だったのだと思う。
当店で条件を変えて発芽試験をしてみた感じでは、タバコは気温がだいたい15度以上になると発芽するようだ。だが、そういう風に人為的に発芽の環境をコントロールすることは、中米の先住民はともかく、タバコの起源地アンデスの人や北米のインディアンたちにとっては不可能なことだった。
彼らは温かい春になったら種をまくしかなかった。
でも、種をまくころには、こぼれ種が勝手に発芽している。
彼らは多分、それをそのまま利用していたのだと思う。
発芽を人為的に早めることができないなら、わざわざ種をまく必要はあまりないのだ。
タバコはきっと、「勝手に生えてくる雑草の中で、ひときわ巨大で、唯一といっていいほど喫煙に適した植物」みたいな位置づけだったのではないだろうか?
勝手に生えてきた中から、タバコ以外の植物を刈り取って、選択的に育てたのではないだろうか?
カルロス・カスタネダ曰く、インディアンは見渡す限りの大地を、ある意味で“自分のもの”にしたという。
そういう贅沢な概念が成り立つぐらい、彼らの人口密度は低く、アメリカ大陸の土地は広大だった。
そんな広大な土地に住み、肥料という概念があまりなく、おそらく耕すこともあまりしなかった人々にとって、農業の形は、今より全然「採集」に近かった。
そういう意味では、タバコは今よりずっと「自然のめぐみ」だった。
その時代のたばこは、今よりずっと旨かったのだろうか?
ネイティブアメリカンの方が、昔は、インディアンと読んでいましたが、インディアンは、勘違いからだと、何処かで聞いたような、今は、ネイティブアメリカンの方が、しっくりとします。
煙草は、バッファローのスピリットから、授かったらしいですね。
儀式に使い、部族間の争いを治める時や、友愛を交わす、だから、本来神聖なものだったなだと思います。
たばこが神聖なものだというのは、ある程度までは正しいらしいですが、特段神聖な儀式とかだけで使われていたわけではないようです。
イギリスのIAIN GATELYという人の書いた「TOBACCO」という本によると、マヤ人やアメリカンインディアンは、日常の中でもタバコを吸っていたらしいという記述があります。
実際に栽培してみればわかりますが、タバコという植物は、温帯の気候では雑草のようにたくましく勝手に大きくなりますので、特に神聖な時のためにだけ使われた貴重な草ではないようです。