#3の続き
アメリカ農務省のデータベースにある「日本側の要求」と、日本が現在実際に要求している検査手法が食い違っていたせいで、問題はかなりややこしいことになりました。
私は何とかして、サンダースさんに、「日本はアメリカから輸入されるタバコの種子について、ラボでの検査等は要求していない。要求しているのは目視による簡単な検査だけ」ということを認めさせなければなりませんでした。
アメリカ人はこういうところの融通が利きそうなもんですが、お役所仕事だからか、はたまたサンダースさんが堅物だからなのか、私がいくら説明しても納得してくれませんでした。
十数回のメールのやり取りの中で、私は、Webで公開されている日本の農務省のデータベース(英語版)を提示したり、「ほんと、お願いしやす!」と人情に訴えかける作戦を採ったりしましたが、サンダースさんは、全然折れない。
そしていちいち返信が遅い!
そんなこんなで、帰国の日時が1か月後に迫っていることもあり、私はすこし焦り始めました。
すると、私の熱意が伝わったのか、サンダースさんから
「そのことを証明する公式な文書があれば検査してもいいわよ」
という内容のメールが返ってきました。
そもそも、日本の農務省の公開webデータベースが公式の文書だろーがという不満はさておき、私は、その“公式な文書”を取得するために、農務省横浜防疫所に、スカイプの国際電話機能(安いけど有料)を使って電話を掛けました。
そのとき対応してくれた人は、私の公務員のイメージからは程遠いほどの神対応をしてくれました。
さすがに名前は公開できませんので、ここでは仮にAさんとしておきます。
Aさんは、私がことのいきさつを説明すると、すぐに、その“公式な文書”の作成に取り掛かってくれました。(その節は神対応ありがとうございました。公務員はカスとか思っててすいませんでした。みなさん、日本の防疫所は個人の要求にも丁寧・迅速に対応してくれますよ!アメリカのそれとは大違いですw)
そして、数日ののちAさんから次のようなメールが来ました。
農林水産省横浜植物防疫所業務部種苗担当のAと申します。
かねて当所あてにご照会がございました、米国産タバコ種子の我が国への輸入に関しご連絡させていただきます。
先般もご案内させていただきましたとおり、米国農務省動植物検疫局(USDA/APHIS)がウェブサイト上で公開しております「Phytosanitary Certificate Issuance & Tracking System」内の「Phytosanitary Export Database(PExD)」というデータベースを利用し、米国産タバコ種子の日本向けの植物検疫条件について検索を実施いたしましたところ、下記の情報が判明いたしております。
https://pcit.aphis.usda.gov/PExD/faces/ViewPExD.jsp
(1)米国産タバコ(Nicotiana tabacum)については、「Commodity Summary」の項で、生果実、生茎葉、地下部等についてはそれぞれ輸入禁止、植物検疫証明書の添付等の制限事項の記載があるが、「種子」については記載がない。
(2)当該データベースでは、「Commodity Summary」の項に特別な記載がない場合には、「General Requirements」を参照することとガイダンスがある「General Requirements」を確認したところ、「Restricted Products(制限品目)」の項目に「Seeds」として種子全般に関する条件について以下のとおり記載があった。
①植物検疫証明書の添付が必要。
全ての日本向け種子は日本到着時にブロッター検査の対象となる。
日本の非検疫病害虫のリストにない病害虫が発見された場合には、検疫病害虫として植物検疫措置が行われ、荷口は輸入拒否又は廃棄される。
②以下の病菌が所定の許容レベル(上限)を超過した場合には、植物検疫証明書は発行されない。
Claviceps(ergot)sclerotia:重量比で0.05%以上の当該菌の混入・汚染がある場合
Sclerotinia sclerotia:重量比で0.01%以上の当該菌の混入・汚染がある場合
上記(2)の②に関しては、我が国は米国サイドに対し当該2種病菌に対する特別な検査要求は行っておりません。
また、(2)の①に関しても、全ての輸入種子についてブロッターテスト(水分を含ませたろ紙等に種子を一定期間置いて病菌の付着の有無を調べる方法)を実施するものではなく、特定の植物の種子や、肉眼検査で変色・奇形等の異常があった場合にのみ実施する試験方法であり、米国産タバコ種子は肉眼検査で異常があった場合を除き、ブロッターテストの対象外となっております。
また、我が国の植物検疫制度では、植物を輸入する際、予め輸出に先立って輸入許可書を手配し植物防疫所に提出する、いわゆる輸入許可制は採用しておりません。
なお、米国等の主要国の植物検疫制度では、この輸入許可制を導入しているところです。
以上のことを端的に説明した当方書簡を別添ファイルのとおり作成いたしましたので、ご確認の上、米国サイドにご説明をお願いできればと存じます。
なお、本書簡は我が国の植物検疫制度の現状を、現場の植物防疫官が説明したものという位置づけとなっており、当該データベース上の記載事項にある事実誤認や理解不足について、直ちに修正を求めるといった性質のものではないことを併せてご説明いただけると幸いです。
この点については、日米政府間レベルでの協議事項として、別途、当所より上部機関に上申し、日米間での修正に向けた検討を行う必要があると考えております。
米国サイドへのご説明の結果、尚も植物検疫証明書の発行が行われない場合には、お手数ですが再度当所までご連絡いただきますようお願いいたします。
今後とも植物検疫制度へのご理解とご協力をお願いいたします。
横浜防疫所、神対応すぎ・・・
個人の要請に対してここまでやってくれるとか、日本人まじめ過ぎです。
というわけで、次回は、Aさんが発行してくれた“公式な文書”を携えて、サンダースさんに会いに行きます。
友人と、Cosumnes River Gorgeという渓谷にロッククライミングに行った時の写真。正面の崖はほぼ垂直で100mぐらいありますが、その崖の上にはなぜか豪邸がありました。
この崖、「崖の上のポニョ」をはるか下に見下ろすレベルの崖です(笑)